自宅ではなく、賃貸物件などが被害にあった場合

大家さん向け:災害があった場合の不動産の税金について

最近は浸水被害をはじめとする各災害に遭うケースが増えてきました。たった1時間程度でも集中的な大雨で、簡単に浸水してしまったりします。

ご自身の所有物件に大雨が流れ込んで浸水してしまったというケースもあるかもしれません。

このページでは大家さん向けに災害があった場合の不動産の税金についてご紹介しています。

前提:不動産所得の取り扱いは規模によって2つに分かれる

すでに不動産オーナーの皆さんはご存知だと思いますが、個人の不動産所得の前提として、事業的規模があるかないかで所得税の計算上の取り扱いが異なるという点をおさえてください。

※法人(会社)の場合には、法人税という別のルールになります。

事業的規模があるケースとは

「建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定」という言い方をしたりします。

「所得税基本通達26-9」を検索してみてください。

まず、「社会通念上、事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきである」と記載されています。

社会通念上と言われても、具体的にどういうことなのという話になると、

・アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。

・独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

・賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみて(上記の)これらの場合に準ずる事情があると認められる場合

には特に反証がない限り、事業として行われているものと考えますよということです。

よく「5棟10室基準」と言われますが、おおむね5棟以上、おおむね10室以上、状況に応じてこれらに準ずればよいということですので、仮に9室だったとしても、事業的規模がないとは一概には言えないということになってきます。

また不動産の場合、共有名義という問題が出てきます。夫婦で一つの不動産を買った場合とか、親から相続した物件を兄弟姉妹で引き継いだ場合など、共有で持っているケースは多いと存じます。その場合の数え方についてはこの通達には記載がありません。

「戸建て1棟と8室のアパートを貸していますよ」という場合にはどうやって計算するのか、「駐車場はどうやって数えるの」などもこの通達には記載はございません。

自分の場合にはどうなのかなと気になったら、税務署へ相談して確認することをお勧めします。

個人事業税に注意!

事業的規模があるという場合には、個人事業税がかかってきます。個人事業税は都税事務所など各都道府県税事務所から納付書が送られてくるタイプの税金となります。

最近では、事業内容を問い合わせるお手紙が送られてくるケースが増えてきているようです。届いたら、無視せずに対応なさってください。

事業的規模がある場合のメリット

青色申告特別控除が65万円まで可能になる

真っ先に思いつくのはこれではないでしょうか。事業的規模がない場合には10万円でしたが、事業的規模がある場合には最大65万円までとなります。

ただし、毎年3/15を過ぎて申告する期限後申告の場合には10万円となってしまいます。

65万円控除は申告期限内に申告した場合限定の特典となります。

青色申告の事業専従者給与の経費算入又は白色申告の事業専従者控除が可能になる

不動産所得でご家族が事業に専従しているケースは多くはないのかもしれませんが、事業専従者の要件を満たしているようでしたら、適用可能です。

事業専従者は青色か白色かによって要件も手続きも違います。青色は事前届け出制ですので、届出書の提出期限にご留意ください。

賃料等の回収不能額(いわゆる貸倒損失)がその年の経費になる

不動産賃貸業を行っていると、賃料を払ってもらえない状況になることもございます。1室でもそういう人がいると途端に資金繰りが悪くなってしまいます。

そこで困るのが、入金はなくても税金は払う必要があるという点です。この点はまたどこかでご案内できればと考えております。

さて、最終的に回収不能が確定した場合には、事業的規模がある場合にはその年の経費にできます。

一方、事業的規模がない場合には遡って所得計算をやり直すという大変面倒くさいルールになっております。

 賃貸用固定資産の取壊し、除却などの資産損失の全額を損金算入可能

事業的規模がない場合には上限がありますが、事業的規模がある場合には、全額経費算入OKです。

その他

もしも所得税を延納で払った場合には、事業的規模がある場合には延納に係る利子税のうち不動産所得対応分が経費にできます。

まず延納とは何かという話ですが、「所得税の納付期限内に、税額の1/2以上を納めれば、残りは5/31までに納めればよいですよ」、「ただし、納付期限から遅れている分、その期間の利息はもらいますよ」という制度です。

この利息のことを「利子税」と呼んでいます。

本題:事業的規模の有無、青白によって違う

前提が長くなりました。要するに事業的規模があるかないかで取り扱いが変わってくるという話です。

さて、災害があった場合の取り扱いですが下記のようになります。

事業的規模がある場合

災害があった場合の損失は、必要な経費に算入されます。ただし、保険金などを受け取った場合には、その保険金の金額を損失の額から除きます。

なお、引ききれない損失があった場合には3年間繰り越しが出来るわけですが、

純損失の場合、青色申告なら全額3年繰り越し、白色申告なら主に災害損失が3年繰り越しといった話となります。ここについてもそのうち詳しくご案内できればと考えております。

事業的規模がない場合

事業的規模がない場合には、必要な経費に算入するか、雑損控除を使うか選ぶことができます。

必要な経費に算入する場合には、上限があります。要するに所得は0円まで、それよりも低くなるのはダメよということです。ただし、保険金などを受け取った場合には、その保険金の金額を損失の額から除きます。

「雑損控除」については一見すると使えなさそうに感じるかもしれませんが、事業的規模に該当しない不動産所得に係る資産の災害による損失についての場合にはOKということになっているようです。

 

受け取った保険金の方が多かった場合

中には被害を受けた金額よりも受け取った保険金の方が多いということもあるかもしれません。そういった場合には、被害を受けた部分は費用と相殺して、残りの多かった部分は非課税となります。「所得税法施行令30条 非課税とされる保険金損害賠償金等」を検索してみてください。

これは原則、損害の補填として支払われる保険金は非課税という考えがベースにあります。そして、事業にかかわるものについては、その部分は相殺して考えましょうということです。ですから、多くもらった場合には、税金かかりません。

※法人(会社)の場合には、雑収入にします。ここは大きな違いですね。

災害損失特別勘定について

所得税基本通達の「36・37共-7の5」というところに「災害損失特別勘定の設定」について、「36・37共-7の6」というところに「災害損失特別勘定の繰入額」について記載されております。

税務署への書類の提出期限などが延長されることも

災害があった場合には税務署への書類の提出期限などが延長となることがあります。

2種類ありまして、一つは、自動的に延長となるケース。地域全体が影響を受けている場合などに、そういったことになるようです。(平成30年7月豪雨の際には、自動延長となりました。気になる方は国税庁のサイトをご覧ください。)

もう一つは自分から「延長してください」という書類を出すケースとなります。

災害があった場合の賃料収入について

「消費者庁」のサイトに、災害があった場合の不動産賃貸借などの相談例というPDFが掲載されております。これは借主側からの視点にたったもののようなのですが、大家さんにとっても役に立つのではなりでしょうか。

別途、「法テラス」のサイトにも平成30年7月豪雨(西日本豪雨)の被害に遭われた方向けのページがあり、そこに賃貸借関係のQ&Aが掲載されております。その中でも貸主からのお問い合わせが、参考になるかもしれません。

税金面では、賃料を払ってくれないときの処理がポイントになるでしょうか。

契約はそのままで、借主の資金繰りの都合などで単に払ってくれない場合には、未収家賃として、収入になる、つまり、税金がかかります。後に、回収不能が確定した段階で、大家さんの事業規模によって、過去の決算のやり直しをするか、損失処理することになってきます。

一方、賃料を減額したり、賃料はもらえないということになった場合には、収入計上はなしとなってくるでしょう。税務署対策としても覚書等の書類や写真といった説明資料を残しておくことをお勧めします。

なお、借主さんとの交渉など法律相談は税理士では対応できませんので、弁護士などへご相談ください。

まとめ

浸水などの被害にあった場合には、状況が落ち着いた段階で、税理士がいる方はその税理士へ、税理士がいないという場合には税務署と役所へ相談することをお勧めします。

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