このページでは、個人事業と会社、どっちがよいのかについて検討の材料を提供できればと存じます。
事業を行う上では、主に二つの選択肢があり、個人事業主となって個人で事業と行う方法と、会社化して、社長として事業を行う方法となります。
まずはそれぞれにかかってくる税金について検討しましょう
前提として、毎年の税金を計算する上での、個人事業と会社にした場合の違いについてお伝えしておきます。
個人事業は、売上から原価や経費を引いた金額に所得税や住民税といった税金がかかります。
会社についても、売上から原価や経費を引いた金額に法人税や地方税といった税金がかかります。
単にこれだけですと、「所得税や住民税」と「法人税や地方税」の税率を比較して、低い方がお得ですねということになってきますが、単純にこれだけの比較では乱暴です。
といいますのも、個人事業の場合には、利益はそのまま自分の懐に入りますが、会社にしてしまうと会社のお財布に入りますので、そこから自分のお財布に入れるためには、役員報酬や配当といった形で、会社から自分のお財布へ動かす必要があります。(なお、このページでは深く述べませんが、中小企業の場合には、配当というかたちよりも役員報酬でとりだすということが多いです。)
ですから、会社については、売上から原価や経費を引いた金額に法人税や地方税といった税金がかかり、別途、役員報酬には所得税や住民税といった税金がかかることになります。
また、役員報酬の税金の計算をする上では、給与所得控除も忘れずに考慮なさってください。
さらに、社会保険についても注意が必要です。個人事業主と会社では、制度が異なります。個人事業主の場合に、自治体等の国民健康保険に加入して、国民健康保険料と年金保険料を払います。他方、会社の場合には、協会けんぽ等の社会保険に加入して社会保険料を払います。(社会保険料は、会社と個人が折半して負担します。)
なお、社会保険については、同業者団体の健康保険組合に加入できることもありますので、そういったことも研究なさってください。
では、個人事業主の税金について検討しましょう。
個人事業主の場合にかかってくる主な税金は下記の通りです。(国保や年金は税金ではありませんが、記載しております。)
・所得税(超過累進税率といって、やや複雑な税率となっている)
・復興税(およそ所得税の2.1%)
・住民税(自治体によっては、水と緑の森づくり税などもあるが、税率としては、おおむね10%)
・個人事業税(業種により、課税されるかどうか、税率が何%か定められている。おおくの業種は5%)
・国民健康保険料(自治体ごとに計算方法や税率などに差があり、上限も異なるが、率としては、おおむね10%強)
・国民年金保険料(毎年のように変わるが、令和元年度は、月16,410円)
・消費税(課税事業者に該当した場合)
個人事業主の税金をシミュレーションする上で、留意点は3つあります。
一つ目は、所得税の税率は一律〇〇%といったかたちではなく、超過累進税率というものになっている点です。これは、エクセルなどに計算させれば、シミュレーションは比較的簡単だと存じます。
二つ目は、個人事業税です。業種によって課税されるか決まるのですが、曖昧な面もあります。個人事業税の管轄は都道府県ですので、都道府県税事務所などに電話して、ご自身の事業が課税対象なのか、課税対象だとすると税率は何%なのかを確認してもよいのかもしれません。
三つ目は、国民健康保険料などは、住んでいる自治体によって異なるという点です。資産割や平等割などが課される自治体もあるようです。
会社にした場合にかかってくる税金は下記の通りです。(社会保険は税金ではありませんが、強制加入であるため記載しております。)
※中小企業と大企業で税率が異なることもありますが、中小企業を前提として記載していきます。
・法人税(800万円までは15%、超えた部分は23.2%)
・地方法人税(法人税×4.4%、ただし、2019.10開始事業年度から10.3%に!)
・地方税(計算が割と複雑)
・地方税(均等割)(赤字でもかかります。資本金等の額や人数によって決まり、資本金数百万円の一人会社なら年7万円のことがおおい)
・社会保険料(会社負担分)
・消費税(課税事業者に該当した場合)
以下、役員報酬分(まず、給与所得控除の計算を行う!)
・所得税(超過累進税率といって、やや複雑な税率となっている)
・復興税(およそ所得税の2.1%)
・住民税(自治体によっては、水と緑の森づくり税などもあるが、税率としては、おおむね10%)
・社会保険料(個人負担分)
会社の税金のシミュレーションの留意点は3つあります。
一つ目は、税率などが頻繁に変わるということです。税制は政治の影響をかなり受けますので、その時々で、税率などもころころと変わりますし、地方法人税などの新しい税目も増えたりします。
二つ目は、地方税の計算が、割と複雑であるという点です。
地方税は都道府県税については都道府県ごとに、市区町村税については、市区町村ごとに税率などがことなります。
さらに標準税率と超過税率のどちらが適用となるのかなどの判定があります。その上で、軽減税率が使えるのかの判定があり、使える場合には400万円までは〇%、800万円までは△%、800万円超は×%などと細かく税率が決まっています。
三つ目は、役員報酬を払う場合にはその計算も必要という点です。前述のとおり、法人税などの計算だけでは、会社にお金がストックされるだけですので、役員報酬を払うということも念頭に入れておく必要があります。役員報酬を払った際には、給与所得控除がありますので、そちらも忘れずに考慮なさってください。また、社長へ役員報酬を払うと、社会保険への加入も必要となりますので、社会保険料の負担の計算も必要となります。
計算のイメージを記載しておきます。
仮に利益が1000万円出る場合を考えます。
個人事業主の場合には、所得控除やいわゆる「青色申告特別控除」などは無視して考えますと、この利益1000万円に対して、所得税や復興税、住民税、個人事業税、国保が課されることになります。その他に、国民年金保険料の支払いも生じます。
他方、法人の場合には、仮に利益が1000万円出そうというときには、まず役員報酬をいくらにするかを考えます。利益から役員報酬を引いた残りが最終的な利益となるイメージです。
役員報酬として700万円受取ることとした場合には、法人税などを計算するときの利益は300万円となります。
なお、役員報酬というのは、法人税法上、否認される(=経費として扱われない)こともありますので、実際に役員報酬を出す場合には、よく調べてから役員報酬を支給なさってください。(「定期同額給与」や「事前確定届出給与」などで検索すると情報が出てくるかと存じます。)
上記のようなケースですと、業種や自治体によっては同じくらいというシミュレーションになったという方もいるのかもしれません。
昨今ではいわゆる「法人税率」が低くなってきましたので、役員報酬を取らないということですと、会社にした方が税金などは低く抑えられるのかもしれません。しかし、会社の利益を全部、役員報酬として社長が回収するということになると、社会保険料の負担が重く、なかなか大変かもしれません。
どちらが税額が低くなるのかは、バランス次第というところでしょうか。いろいろとシミュレーションなさっていただければと存じます。
会社にした場合には、役員報酬をいくらにするかで随分とトータルの税額が変わってくるかと存じます。
別途、消費税の課税事業者に該当する場合には、消費税の検討も出てきます。
また、会社にすると、登記と呼ばれる法務局への手続きが必要となり、登録免許税などがかかりますし、決算を税理士などへ、社保の手続きや給与計算などを社労士へ依頼するとその分、手数料がかかりますし、相続の際には、非上場株式として、相続税の計算の対象となってきます。
さらに、税務調査の頻度も個人事業主と会社では異なっていると言われています。
今は、簡単に会社を作れる時代となりました。どちらがよいのか、慎重に判断なさっていただければと存じます。
※令和5年10月からインボイス制度が始まりました。インボイス制度が始まると、消費税の問題が出てくるため、さらに慎重な判断が必要かと存じます。