出版社向け:インボイス制度の影響

令和5年10月1日からインボイス制度が始まる予定です。

【追記】

令和5年夏時点では、適格請求書のサンプルの提出を求められることがあるようです。どんな請求書にすればよいのか分からないという場合には、税理士等へご相談ください。

また、「インボイス制度の実施に関連した注意事例について」というものが公正取引委員会のサイトに掲載されておりますので、ご一読ください。

【追記ここまで】

 

このインボイス制度は、令和3年夏時点では、不透明な部分も多く、実際に始まるのか分かりませんが、もしも始まったら、こういった影響があるかもしれないということをお金の面からご紹介していきます。

本則課税の場合、免税事業者へ支払いがある場合には消費税の納税額に影響しますので、誰が免税事業者で、どれくらい影響があるのかを事前に把握したいところです。

インボイス制度とは

インボイス制度とは、請求書などの記載事項が多少変わる面もありますが、最終的には消費税の問題となります。

消費税の計算上、いわゆる「免税事業者」と「課税事業者」がいます。このうち、「課税事業者」が「免税事業者」へ支払った経費について、消費税計算上の経費扱いにはしないというのが、最終的なインボイス制度のかたちです。

しかし、いきなりですと、影響が大きすぎるので、経過措置といって、最初の3年は80%だけ経費扱い、次は50%経費扱い、最終的には0扱いというように調整がされます。

課税事業者とは

課税事業者とは、消費税の申告をして、納税等している方をいいます。

課税事業者に当てはまる方は、いくつかありますが、主に2年前の売上が1000万円を超えている場合には、課税事業者だと存じます。

また、課税事業者となった場合には、消費税の申告書を作成して、納税することになりますが、その計算方法が「本則(ほんそく)課税」と「簡易課税」という2つの計算方法があります。

簡易課税の場合

まず、ご自身が簡易課税の場合には、インボイス制度による税額への影響はありません。

簡易課税の場合、課税売上高に対し70%のみなし仕入率を適用して仕入控除税額を計算します。つまり、売上の消費税相当額の30%が消費税の納付額となります。

簡易課税制度とは、中小事業者の納税事務負担に配慮する観点から事業者の選択により、認められている消費税の計算方法であり、インボイス制度が始まった後も、影響しません。

今までは、簡易課税を選択した方が消費税の納税額が少なくなるといった理由で、選択していることが多かったですが、今後は、事務手間の観点から選択する方が増えるのかもしれません。2年前の売上が5,000万円以下でしたら、検討してみてもよいのではないでしょうか。

※簡易課税の場合には、車両や建物の売却などがあると、それも課税売上となりますので、納税額が大きくなる可能性があります。建物の売却は滅多にないと思いますが、車両の買い替えはあると思いますので、タイミングにご留意ください。(いわゆる下取りも売却と同じ扱いとなります。)

本則課税の場合

本則課税の場合には、インボイス制度が納税額に影響してきます。

本則課税の場合には、売上に対する消費税額(例えば本体価格1000円の書籍なら、その10%である100円)から、原価や経費に対する消費税額(例えば著作者へ払う印税が300円だったとすると、その10%である30円)を引いてもの(例えば売上の消費税100円から印税の消費税30円を引いた70円)が消費税の納税額となります。

今までは、原価や経費に対する消費税額は、全部引けましたが、インボイス制度が始まりますと、原価や経費に対する消費税額のうち、課税事業者へ払ったものだけが引けるということになります。

上記の例ですと、著作者が課税事業者だった場合には30円引けるが、免税事業者だった場合には引けないということになります。引ける額が少なくなるということは、納税額が大きくなるということです。

免税事業者への支払いが大きい場合には、インボイス制度による納税額の増加も大きくなります。

なお、R5年10月1日から3年間は経過措置といって、80%は引いてあげますというルールが設けられております。上記の例ですと、30円のうち80%の24円は引いてくれる、つまり100円から24円引いた76円が納税額となります。

上記の例ですと、元々は納税額70円だったものが76円になっておりますので、6円納税額が増えることになります。当面は、この6円を出版社側が負担するのか、それとも著作者側に負担してもらえるのかが、インボイス制度のポイントになってくると存じます。

80%の期間が終わると、50%の期間が3年間続き、その後は0円となる予定です。

出版社側が全額負担するか、著作者側にも負担してもらうか

インボイス制度が始まると、出版社側が消費税で本則課税の場合で、支払先が免税事業者の場合には、納税額が増えるという話を記載しました。

そこで問題となるのが、増えた分を誰が負担するのかという点です。

税務署側がイメージしているのは、お金を受け取る側の免税事業者が課税事業者になるはずであるから支払者側(出版社側)に影響なしというかたちだと思われます。しかし、実際には、免税事業者が課税事業者になるケースは多くないと思われます。

インボイス制度が始まってみないと分かりませんが、現時点では、①出版社側が増えた分の納税額を負担するか、②著作者側が金額の減額を受け入れるか、③お互いの歩み寄りで落ち着くかの3択になってくるのではないかと思っております。

免税事業者への支払いが少なければ、出版社側が負担するという選択があると存じます。例えば、今まで本体価格10万円の仕事で税込11万円支払っていたとすると、2000円(=1万円×(1-80%))が消費税の負担が増えた分となります。

著作者側に負担してもらう場合には、今まで11万円(税込)払っていた仕事に対し、例えば10万円(税込)でお願いするということになります。しかし、いきなり10万円にするのは現実的ではないかもしれません。著作者側も文具代や通信費、PCやタブレット代などを支払うときに、消費税を負担していることなどを考慮して、10万1千円などになるでしょうか。

お互いに歩み寄る場合には、例えば、80%の経過措置期間は10万8千円(税込)するなどです。

(追記)公正取引委員会のサイトに、「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方」という資料が掲載されておりますので、ご確認ください。

免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」というページも開設されましたので、ご確認ください。

 

(追記)

令和5年春の時点では、今まで通り消費税分を加算して支払うという出版社が多いように感じています。

実は、その方法が最も事務手間がかからない方法なのかもしれないと思っています。

Aさんは登録しているから10%乗せて払って、Bさんは免税だから消費税0で支払うという計算を全自動で行うシステムを構築できる会社はよいですが、実は手動で作業しているという会社も多いのかなと思います。そうなってくると、事務手間がものすごいことになります。

支払うときは、全員に10%乗せて払うというのが楽なのかもしれないと思っております。

支払先が課税事業者かチェックする方法

支払先が免税事業者か課税事業者かで出版社側も影響を受けるという話をしました。

では、支払先が免税事業者か課税事業者かを調べる方法はあるのでしょうか?

令和3年夏の時点では、調べる方法はありません。

課税事業者の場合には、登録手続きをすることで、請求書に記載する用の番号が割り振られることになっています。その番号の有無で免税事業者か課税事業者か推定できます。国税庁としては、そのうち、インボイス制度で使う課税事業者に割り振られる番号をインターネット上で、検索できるようにするといったことになっています。

(追記)「国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」が公表されました。これを見ると、番号から登録しているかを検索できますが、会社名からは検索できないようです。

ただし、登録番号は法人番号(=会社のマイナンバーのこと)と同じですので、「国税庁法人番号公表サイト」で法人番号を検索して、今回の「国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」で検索することで会社の場合(=法人の場合)には確認できます。しかし、個人事業主の場合には、登録番号が分かりませんので、本人に聞くしかなさそうです。(追記ここまで)

以前、マイナンバー制度が始まったときにもインターネット上で法人番号検索できるようにすると言っており、実際にサイトは出来上がりましたが、使い勝手が良いかというと改善の余地ありというサイトだと存じます。ですので、今回のサイトも期待できないかなと思っております。

支払先が免税事業者か課税事業者か分からなければ、影響額も算出できず、出版社側で負担できる範囲の金額の収まるのか、著作者側にも協力してもらう必要があるのかといったことの見通しが立たないかと存じます。

現状、普段の会話の中で、さりげなく聞いてみるくらいしか方法がないかと存じます。また令和3年10月からは課税事業者がインボイス制度で使う登録番号というものを取得できますので、「取得したら登録番号を教えてください。」と伝えておくと、免税事業者か課税事業者かを判定できるかと存じます。

(追記)令和4年1月から、登録番号を尋ねる書類が売上先から届いているようです。この書類を真似して支払先へ聞いてみるのもひとつの方法かと存じます。

インボイス制度で使う番号の取得方法

令和3年10月からは課税事業者がインボイス制度で使う登録番号を取得できると書きました。

取得方法は、書類を記入して税務署へ提出するだけで取得できます。具体的には、国税庁の公式サイトの中の「適格請求書発行事業者の登録申請手続」というページをご覧ください。

注意点としては、登録番号は課税事業者が取得するものですので、免税事業者が出すと課税事業者になります。

つまり、消費税の納税が必要となります。

もしも、免税事業者だという場合には、もしも課税事業者になったらどれくらい消費税を納めることになるのか。消費税の課税事業者になった方が得なのか、それとも免税事業者のままの方がよいのかよく検討してから手続きなさってください。

課税事業者になった上で簡易課税を選択という方法もあります。

消費税に関連しての値下げ要請は大丈夫なのか

覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、消費税率が8%から10%になったときなどは税率が上がった分、きちんと税込みベースで値上げして、本体価格を維持せよといった話がありました。

例えば、税込108,000円の仕事は、増税後に税込11万円にして、本体価格10万円を維持せよといった具合です。これを増税後も税込み108,000円のままにしておく、本体価格が98,181円になってしまい、本体価格が下がっていて、よろしくないということです。

この消費税の転嫁拒否については、公正取引委員会のサイトをみると、

「消費税転嫁対策特別措置法は,令和3年3月31日をもって失効しましたが,経過措置規定(同法附則第2条第2項)により,同法の失効前に行われた転嫁拒否等の行為は,同法の失効後も監視・取締り等の対象となります。令和3年3月31日までに受けた転嫁拒否行為や同日以前から受け続けている転嫁拒否行為については,引き続き申告を受け付けております。」

(引用:公正取引委員会「消費税の転嫁拒否等の行為等に係る相談・違反情報の受付窓口」)

とありますので、令和3年4月以降のものは、一旦、この取り締まりはなくなったようです。

しかし、インボイス制度開始にあたり、似たような取り締まり制度ができるかもしれません。どういった価格交渉ならセーフで、どういった価格交渉ならばアウトなのか、そのあたりが現時点で不明だなと感じております。

 

(追記)既に紹介した内容と重複しますが、令和4年1月に公正取引委員会の公式サイトに「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」というものが出ました。

「仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討しているが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となるか」などが記載されております。

このQ&Aは、文字情報のみですので、読むのは大変だと思いますが、

「Q7 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか。」という部分などをよく読んでトラブルが起こらないようになさってください。

また、公正取引委員会の公式サイトに「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方」というものが出ています。イラストでの説明ですので、説明不足な面もありますが、イメージはしやすいかもしれません。

 

(追記)令和4年8月に公正取引委員会のYouTubeチャンネルに「インボイス制度の開始に向けた検討(第2部 留意点と取引条件」についての動画がUPされました。

https://www.youtube.com/watch?v=gbNRYV6Dgqg (冒頭に大音量で変な広告が流れますので、音量にご留意ください。)

説明が足りていないような気もしますが、一度ご覧ください。

ちなみにこの動画の第1部は何だったかというと、国税庁のYouTubeチャンネルに「インボイス制度の開始に向けた検討(第1部 事前準備編)東京国税局」という動画がUPされています。

https://youtu.be/5XFYx1vcU8E

なお、動画にはチャプターといって見出しのようなものがあり、

0:00 はじめに

2:05 主な事前準備【売手の立場】

6:22 主な事前準備【買手の立場】

という設定がされておりました。

中でも主な事前準備【売手の立場】のところで、「何をインボイス(の書類)とするかが実務上最も重要な検討項目」という説明がされていました。印税収入の場合には売手側からの請求書はなかったということもあるかと思います。書類についても徐々に検討していく必要がありそうです。

まとめ

このページでは、出版社に向けて、インボイス制度の影響について記載してみました。現時点では不透明な部分が多いですので、実際に始まるかすら分かりません。

最後に宣伝です。

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