このページでは、インボイス後の価格交渉がこういったかたちになるかもということを記載してみます。想定しているシチュエーションは、本人が作家さんや漫画家さんで、出版社へ向けての売上の話となります。
なお、インボイス制度については不透明な部分があり、筆者も十分に理解できているわけではない状態で記載していますので、全然違っているよということもあり得るかもしれません。(令和3年夏時点)
(追記)
公正取引委員会のYouTubeチャンネルで「令和5年10月のインボイス制度開始に向けた動画」が掲載されています。免税事業者との取引条件を見直す場合の留意点などがテーマとなっておりますので、お時間がある方は、視聴してみると参考になるかもしれません。なおこの動画の視聴期間は、令和5年9月30日までとのことです。
(追記)
公正取引委員会のサイトに、「インボイス制度の実施に関連した注意事例について」という資料が掲載されておりますので、ご一読ください。
まず、押さえていただきたい点は、価格という面では、課税事業者の方にとっては影響はないという点です。
本人が作家さんや漫画家さんで、課税事業者の場合には、出版社へ向けての売上は、今まで通り、本体価格+消費税10%(実際には、そこから源泉税を引いた金額)が入金額となります。
簡易課税の方も課税事業者に含まれます。
確定申告の際に、消費税を納税している方が、課税事業者となります。
もしもご自身が課税事業者か分からないようでしたら、過去の確定申告の控えを準備した上で、税務署や税理士へご相談ください。
インボイス制度で影響が出てくるのは、本人(作家さんや漫画家さん)が課税事業者でない場合です。免税事業者と言ったりもします。
免税事業者の対応としては、下記4つを思いつきました。(下記以外にも、あるかもしれません。)
①税務署へ届け出を出して、課税事業者になり、消費税を納付する。
②今まで通り、本体価格+消費税10%を受け取る。
③消費税相当額を受け取らずに本体価格のみを受け取る。
④消費税相当額について交渉してみる。
この方法は、おそらく税務署が想定している方法だと思います。
免税事業者も消費税相当額を受け取っているのなら、納税してくださいと。
しかし、この選択をする方は、多くはないのかもしれないとも感じています。
※もしも課税事業者になる場合には、簡易課税の選択についても検討ください。
※いわゆる2割特例という制度も出来ましたので、検討ください。
出版社側が何も言ってこなければ、今まで通り、本体価格+消費税10%を受け取るということもあるかもしれません。
出版社側としても、この件にどこまで踏み込むのか、迷うところかもしれません。編集者と作家さんや漫画家さんとの関係性を大事にしていたり、出版社の規模だったりも影響すると思います。
インボイス制度が始まっても、今まで通りで受け取る額は変わらないということもあり得ます。
編集者から「出版社の方針として、課税事業者でない方へは消費税相当額を払わないことにしました」といった内容の連絡がくるかもしれません。
例えば10万円の仕事で、今までは11万円(10万円+消費税10%)を受け取っていた場合、受け取る金額は10万円になるということです。
出版社としては、いままでは、消費税計算上の経費となるから、消費税相当額10%を支払っていたという部分もあります。受け取る側からすると1万円損するように感じるかもしれませんが、出版社側から考えると、「元々10万円の仕事だから10万円払う」のは、適切な対応ということになるでしょうか。
この辺りは、編集者との関係性も影響すると思いますが、潔く受け入れるという方法もあると思いますし、別の出版社を探してみるという方法もあるかと思います。
なお、今回のインボイス制度には経過措置がありますので、しばらくは、こういった要請は来ないのではないかと存じます。
(追記)
公正取引委員会のサイトに「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」そいうページが開設されました。それを読むと、上に書いたような通知は問題になりそうですので、こういった通知は来ないのではないかと思っています。
今回のインボイス制度は、経過措置というものが設けられています。
経過措置とは、いきなりインボイス制度を導入すると、影響が多すぎるということで、徐々にやっていきましょうというものです。
その経過措置とは、令和8年9月まで消費税計算上の経費として80%認めるというものです。
例えば、11万円(本体価格10万円+消費税1万円)を出版社が支払ったとします。
受け取った方(作家さんや漫画家さん)が課税事業者でない場合、支払った方(出版社)は、消費税相当額0円扱いで消費税の計算をすることになります。
しかし、消費税1万円分を支払ったのに0円扱いは、ダメージが大きすぎるということで、消費税1万円のうち80%、つまり8,000円は消費税相当額として消費税の計算に使ってよいというものとなります。
つまり、交渉の余地は多少あるということです。
例えば、今まで税込11万円だった仕事をしたときに、「いきなり10万円に減らされるとつらいので、10万8千円くらいでいかかですか。」という交渉をしてみるという方法はあると存じます。
もしかすると出版社側からこういった提案があるかもしれません。
覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、消費税率が8%→10%になったときなどは税率が上がった分、きちんと税込みベースで値上げして、本体価格を維持せよといった話がありました。
例えば、税込108,000円の仕事は、増税後に税込11万円にして、本体価格10万円を維持せよといった具合です。これを増税後も税込み108,000円のままにしておく、本体価格が98,181円になってしまい、本体価格が下がっていて、よろしくないということです。
公正取引委員会・中小企業庁から書面(消費税の転嫁拒否等に関する調査)が届いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
この消費税の転嫁拒否については、公正取引委員会のサイトをみると、
「消費税転嫁対策特別措置法は,令和3年3月31日をもって失効しましたが,経過措置規定(同法附則第2条第2項)により,同法の失効前に行われた転嫁拒否等の行為は,同法の失効後も監視・取締り等の対象となります。令和3年3月31日までに受けた転嫁拒否行為や同日以前から受け続けている転嫁拒否行為については,引き続き申告を受け付けております。」
(引用:公正取引委員会「消費税の転嫁拒否等の行為等に係る相談・違反情報の受付窓口」)
とありますので、令和3年4月以降のものは、一旦、この取り締まりはなくなったようです。
しかし、インボイス制度開始にあたり、似たような取り締まり制度ができるかもしれません。どういった価格交渉ならセーフで、どういった価格交渉ならばアウトなのか、そのあたりが現時点で不明だなと感じております。
国税庁と公正取引委員会のサイト等で、インボイス制度についての説明資料や説明動画がUPされております。
まず、令和4年1月に公正取引委員会の公式サイトに「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」というものが出ました。
「仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討しているが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となるか」などが記載されております。
しかし、このQ&Aは、文字がだらだらと書いてあり、読むのは大変だと思います。
「Q7 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか。」という部分が重要だと思いますが、この部分だけでも、かなりのボリュームがあり、理解するのは大変だと思います。
次に、公正取引委員会の公式サイトに「インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方」というものが出ています。イラストでの説明ですので、説明不足な面もありますが、こちらの方が感覚的にイメージしやすいかもしれません。
さらに令和4年8月に公正取引委員会のYouTubeチャンネルに「インボイス制度の開始に向けた検討(第2部 留意点と取引条件編)」についての動画がUPされました。
https://www.youtube.com/watch?v=gbNRYV6Dgqg
(公的機関の公式チャンネルなのに、動画再生の前に広告が流れます。音量にご注意ください。)
結局、上記のQ&Aを読んでということになっているので、説明が足りていないような気もしますが、一度ご覧ください。
ちなみにこの動画の第1部は何だったかというと、国税庁のYouTubeチャンネルに「インボイス制度の開始に向けた検討(第1部 事前準備編)東京国税局」という動画がUPされています。
https://youtu.be/5XFYx1vcU8E (こちらには広告はついていないようです。)
上記YouTubeなどは令和5年9月末で公開が終了したようです。
最終的には、出版社と取引する作家さんや漫画家さんは、全て課税事業者になっていくと思いますが、しばらくは、経過措置がありますので、今すぐ課税事業者にならなければならないということもないように感じております。
もしも心配事がありましたら、確定申告の際などに税理士等へご相談ください。